熊谷親方に久方ぶりに会いにいきました。場所は日本橋高島屋、いつものように実に元気であり安心しました。大正生まれの親方は高島屋にはお世話になったと言うことで、毎年必ず律儀に本人が出向いてきます。 ですから私もお会いするのが楽しみで出かけるわけです。 今回は息子さんを引き連れての登場でした。開口一番に日本一の“硯石を発見した”という話からはじまりました。敷地に国道が通ることになって山を切り崩したときに出土したものである、と。この紫雲石は中国の名石と材質が同種と言われ、上海美術館が過去に買い上げられた事実があります。これはこの石の実力と素晴らしを示す上でとても大きな出来事でした。その感謝状に熊谷閣下とあって、親方もこの表現には驚いたそうです。しかしそれが、さらに凄い石が出現したわけですから大変な事件でした。 摺り心地は夢のようで墨が硯に吸い付く感じで、まさに日本刀の研ぎ師が使う最高の砥石と同様の感覚とも思い、誰もいなければひとつ字をしたためようといった心地よさであります。これほどの石をよく見れば、幾重にも金色に輝く結晶が帯状に流れ層をなしています。過去にも輝く類型のものがあったとのことですが、それは錆びる性質のある黄銅鉱であったため、今回の名石とは全く違う石だったようです。昔、近くで金が取れたこともあったそうなので、まさかと思いつつ「調べたら逆に夢が壊れるかも知れない」ということで、楽しみを後回しにしてまずは検査はやめておいたそうです。ともかくこれほどの石はかつて見たことが無いとのことです。まずは日本一とも言える石をご鑑賞ください。 ・摺り比べてみました。 ・硯に走る線をご覧下さい。 ・石には金色に輝く細かい結晶が見られます。 息子さんは親方の性格だと出来た硯も従来品と同じ価格にしてしまうだろう、しかし息子としては「せっかくの凄い紫雲石なのに」と少々不満そうでした。しかし客側からすればこれはまさに買い時な訳ですから、誰もがこの石から購入して行くそうです。因に後にわかったことでずか、この光るものは黄鉄鉱でした。残念。
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